アーティストはいかにアクティビズムを実践してきたか。アクティビズムはいかにアートとカルチャーに映し出されてきたのか。
パリ五月革命からブラック・ライブズ・マターまで、社会を舞台にアートとアクティビズムが織りなしてきた関係性をひもとき、歴史の転換点をつくった抵抗の表現の足跡をたどるとともに、今日のアート・アクティビズムの緊急性を探る。
ソーシャリー・エンゲイジド・アート以後の時代における社会と芸術の関わりを考えるための必読書。
環境運動家は名画にスープを投げつけ、美術館職員はストライキを起こして労働組合を立ち上げ、美術館はパトロンの倫理的問題を看過できずその名前を展示室から消し去る──。
今日の「アート」と「アクティビズム」は複雑に折り重なり、現に切り離すことが不可能になっている。
「二一世紀最初の新しい芸術形態」(ピーター・ヴァイベル)とも言われたアート・アクティビズム。
世界の紛争や対立が深刻化し、加速する資本主義によって社会が崩壊の危機に直面する混迷の時代、「抵抗する表現」はどこへ向かうのか。
本書はこの問いに対して歴史的視座から応える一冊である。
アーティスト/アクティビストである著者のグレゴリー・ショレットは、1960年代から今日に至るまで、世界各国で時代を揺るがせた(しかし少なからず主流の美術史からは排除されてきた)「アートのアクティビズム」と「アクティビズムのアート」の軌跡をたどる。
抗議(プロテスト)をアートとして実現するアーティストと、抗議として美的な手法を採用するアクティビスト。両者は鏡写しの存在であり、どちらも同じ歴史的転換点の構成要素であるとショレットは述べる。
そして、歴史の裂け目でさまよう抵抗の表現の「幽霊(ファントム)」たちに再び生命を吹き込み、積み重ねられてきた有形・無形の遺産を、未来への媒介としてとらえ直すことで、今日の実践者のための創造的な道筋を示唆する。
オルタナティブなき資本主義リアリズムの社会において、表現の行方を照らし出す。
<本書を読んでほしい人>
・現代アートの最新の動向を知りたい学生、研究者、作家、キュレーター
・現代の表現の政治性に気づき、社会との関係を読み解きたい人
・社会運動や市民参加から生まれたクリエイティブな実践について知りたい人
・カルチュラル・スタディーズ、政治社会学、社会運動論に関心のある人
・アート・アクティビズムに対する批評的な視座を獲得したい人
<本書が取り上げる主なコレクティブ・運動>
〈シチュアシオニスト・インターナショナル〉、〈アトリエ・ポピュレール〉、「トゥクマン・アルデ」、〈アートワーカーズ連合〉、〈アーティストと作家のプロテスト〉、〈グループ・マテリアル〉、〈ポリティカル・アート・ドキュメンテーション/ディストリビューション〉、〈イエス・メン〉、「ウォール街を占拠せよ」、〈フォレンジック・アーキテクチャー〉、〈デコロナイズ・ジス・プレイス〉、〈ゲリラ・ガールズ〉、「ブラック・ライブズ・マター」ほか
<本書が取り上げる人物>
ヴァルター・ベンヤミン、アンドレ・ブルトン、ルイーズ・ブルジョワ、アンディ・ウォーホル、ドナルド・ジャッド、ジャスパー・ジョーンズ、ジャック・デリダ、ギー・ドゥボール、ハンス・ハーケ、ルーシー・リパード、リチャード・セラ、ラシード・アライーン、エモリー・ダグラス、マーサ・ロスラー、スザンヌ・レイシー、サンティアゴ・シエラ、ヒト・シュタイエル、タニア・ブルゲラ、エメリー・ムワズール・ディヤバンザ、ヴィダ・モバヘド、JR、デイモン・デイビスほか
アクティビスト・アートは急速に地位を高めている。キュレーターのピーター・ヴァイベルは「二一世紀最初の新しい芸術形態かもしれない」と示唆し、文化理論家のボリス・グロイスは、アート・アクティビズムはまったく「新しい現象」だと主張している。この認識に反して、私はアート・アクティビズムについて信頼できる歴史的背景を組み立てられることを示したい。(中略)本書は直線的な美術史のようなものにはなっていない。アート・アクティビズムを歴史化しようと試みると、それが、単一のマニフェストや特定の美的プロトコルを持たず、公式の流派や正当とされる規範を生み出さない現象であることを認識させられるからだ。
(本書第一章「アクティビストとしての現代アーティスト──これは単なるテストではない」より)
目次(仮)
日本語版への著者の序文(書き下ろし)
序文
1 アクティビストとしての現代アーティスト──これは単なるテストではない
2 シチュアシオニストによる完全な批判と完全な治療
3 アヴァンギャルド・アーティストの集い
4 グリーンバーグ主義者の長い影を逃れて
5 一九六八年とその後──幽霊(ファントム)アーカイブと社会運動文化
6 一九七〇年代──アートにおけるアクティビスト的転回
7 一九八〇年代──新自由主義的転回に反応するアーティスト
8 タクティカル・メディアとしてのシチュアシオニスムの再利用
9 再び街頭へ──タクティカル・メディアから「ウォール街を占拠せよ」(二〇一一年)まで
10 制度批判か、制度の廃絶か?
11 二〇一六年とその後──冬が近づいている/冬はもうここに
12 ブラック・ライブズ・マター──丸見えの逃走
13 アクティビストとしての現代アーティスト──推測、憑在論、結論の欠如
訳者あとがき
読書案内
註
プロフィール
[著]
グレゴリー・ショレット(Gregory Sholette)
ニューヨークを拠点とするアーティスト、著述家、アクティビスト。社会芸術の理論と歴史を専門とする研究者。アートコレクティブ〈ポリティカル・アート・ドキュメンテーション/ディストリビューション〉(1980〜88年)、〈REPOヒストリー〉(1989〜2000年)、〈ガルフ・レイバー連合〉(2010年〜)の共同設立者。未来が訪れなかった過去についてのドキュメント・コレクション「イマジナリー・アーカイブ」の巡回展示プロジェクトのキュレーター。
主な著書にDark Matter: Art and Politics in the Age of Enterprise Culture、Delirium and Resistance: Art Activism and the Crisis of Capitalismなど。クロエ・バスと共にニューヨーク市立大学ソーシャル・プラクティス(SPCUNY)の共同ディレクター、同大学大学院の地球環境科学地理学プログラムの博士課程教授を務める。現在、Time Against Itself: Art and Politics in the Age of the Unpresentという仮題で新たな研究書を執筆している。
[訳]
秋葉美知子(あきば・みちこ)
一橋大学経済学部卒業。株式会社パルコのセールスプロモーション、FM(音楽)雑誌の編集、マーケティング情報誌『アクロス』編集長などを経た後、近畿大学大学院でパブリック・アートを研究。活水女子大学文学部で教鞭を執った後、2013年から特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センターにリサーチャーとして参加。
訳書にロバート・ガード『グラスルーツ・シアター』(美学出版)、パブロ・エルゲラ『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』(共訳/フィルムアート社)。共編著に『ソーシャリー・エンゲイジド・アートの系譜・理論・実践』(フィルムアート社)。