ためし読み

『創作者のための読書術 読む力と書く力を養う10のレッスン』

プロローグ

約束しよう。このイントロダクションはすぐ終わらせる。少し時間をとって数ページ読んでみてほしい。そうすれば、読み方を変えることで書き方も変わるということがわかってもらえるはずだ。作家になるということは、読者にならなければいけないということ。文学というコミュニティにおいて、読者は作家と同じくらい必要不可欠な存在なのだ。そして今この本を読んでいるあなたは、その両方なのではないだろうか。

精読し、批評的に読む ─ 作家がやっていること

作家は本を読む――娯楽のためだけではない。作家は批評的に読み、さらに目をこらして精読している。実際、良い作家は常に読書をしているもので、ノーベル文学賞作家は可能なかぎりたくさんの本を読むし、現代の多作な人気作家も同様だ。J・K・ローリングは新人作家に本を読めと強く促し、スティーヴン・キングも同じことを言っている。作家になるためのもっとも重要なステップの一つが――もちろん書くこともだが――本を読むことであり、さらに作家が読んでいるように読むことなのだ。ひとたび読むスキルを上げたなら、書くスキルも上がっていることだろう。

それでは、精読して批評的に読むとはどういうことなのかじっくり考えていこう。作家は、エンジンを点検する整備士や、葉を解剖する植物学者のように、文字を追っていく。文章がどう機能しているか理解するために文章を読むのだ。ジャンルと形式を特定し、プロットを分析し、構造を描き出し、対立構造、イメージ、あるいはテーマを認識し、キャラクターとその造形について学び、人称視点を分析し、舞台設定を探っていき、そして言葉と声を受け取る。作家は執筆という行為が何をしていて、どんな可能性を秘めているかを学ぶために、そして他の作家から学ぶために、自身の技巧を磨くために本を読むのだ。

ではここで、あなたのお気に入りの作品について考えてみよう。あるいはいっそのこと、本棚から引っ張り出すか、スマートフォンやタブレットの画面に映してほしい。次に以下の質問に答えてみよう。

 

・この作品はどんなジャンルの文章だろうか? 詩だろうか? 短編? 長編? 回想録? エッセイ? あるいはそれ以外だろうか?

・どうしてこの作品はそのジャンルとして成立しているのだろうか? なぜ長編ではなく短編なのか? なぜ物語ではなく詩なのか、またはフィクションではなく回想録なのか?

・この作品のメインキャラクターは誰だろうか? 彼または彼女は何を望んでいるのか、そしてその二つの情報をどうやって読者へ伝えているか?

・この作品で記憶に残っているフレーズやイメージはなんだろうか、そしてなぜ覚えているのだろうか?

 

さらに質問を続けることもできるが、ここでやめておこう――このイントロダクションはすぐ終わらせると言ったからだ。重要なのは、創造的な作家たちは自身の作品に対して無数の選択をしていて、その選択が文章のなかでどう機能しているかを考えることが、あなたをより良い読者に、そしてより良い作家にするということだ。

 

作家のように読むためのレッスン

本書は、作家のように読むために大事なことを、いくつかの短い章に分けて学んでいく。各章では、作家が下す選択のなかから一つ取り上げ、その効果について考察していく。さらに、先ほど挙げたいくつかの質問に加えて、創作における他の重要な側面にも触れていく。本書で学んだことはさまざまな場面で応用できるだろう。授業での課題文、クラスメイトや創作グループのメンバーがワークショップへ持ってきた作品はもちろん、あなたが今読んでいる作品、そして、あなたが執筆中の作品にも。

このイントロダクションが終わる前に、各章で扱う内容について少し説明をしておこう。

 

課題作品と考察のポイント

本書が作家のように読む初めの一歩となるように、各章とリーディング・セクションの両方に、現代の文学作品を掲載している。そして、それらの作品を各章で取り上げるトピックの実践的な例として読み解いていく。作家が下した選択についてより深く考えられるように、各章の最後には「考察のポイント」を用意した。

 

執筆のヒントとなる読書

優れた書き手が知っている秘密、それは、読書を通じて新しい題材を生み出すことができるということだ。優れた作品を精読し批評的に読むことでひらめきが生まれ、新しい題材で書き始めることができたり、執筆中の作品を修正できるかもしれない。読者として読んだページから学んだことを作家としてつくり出すページに応用し、新しい題材や原稿の修正につながるように「執筆のヒント」を各章に用意した。

 

始めてみよう――作家のように読む実践

第1章に移る前に、作家の読み方について不思議に思っている人がいるかもしれない。つまり、作家たちは読書しながら、さまざまな要素をどうやって正確に把握しているのかと。作家ごとにそれぞれ独特な方法をもっているわけだが、作品の読み方を理解しているからこそ作品から学ぶことができるという点に変わりはない。そして、作家ごとの作品の読み方には「その作家なりの書き方」がある程度含まれていることがほとんどだ。よって、各読者にそれぞれ最適のやり方を教えることはできない。その代わり、あなたが取り組みやすいような提案をいくつか挙げていこう。この本を書いている私も含め、多くの作家にとって効果がある提案だ。以下の提案からいくつか試してみたり、さらには組み合わせたりしながら、あなたにぴったりのやり方を見つけてみよう。

 

・先に挙げた質問を考えながら読むこと。各ページ、章、節の最後まで来たら、その質問に答えること

・ゆっくり読むこと。良い文章だと感じたときは、さらにゆっくり読むこと。あなたの頭のなかで言葉が「聞こえる」くらいゆっくり読むこと

・もう一度読み返すこと。読み終えたらもっとも重要だと思う一節まで戻って、作品が伝えたいこと、あるいは言葉の選び方という観点から読み返すこと。短編、エッセイ、あるいは詩の場合は、最初から最後まで読み返すこと

・ペンを持って読むこと。ノートを用意してメモをとっておくこと。あるいはページの余白にメモをとること

・蛍光ペンを持って読むこと。書くことについて何か学べる箇所があったらマークすること

・スマートフォンかパソコンでメモを取りながら読むこと。書くことの技術について何か理解したら、文章アプリやメールを使って記録しておくこと

・お気に入りの箇所を探しながら読むこと。そして、どうしてその箇所が気に入ったのか理解すること。その箇所で作家が何をしたのか確認すること

・読むたびにその文章が全体としてどう機能しているかを考えること。詩として、物語として、エッセイとして、あるいは他の形式としてどのように成立しているのか

・あなたの作品で取り組んでいる技術的な要素(プロット、キャラクター造形、構造など)についてよく考えること。作家がどのようにその要素を使っているか理解しよう(作家は先に挙げた要素をどうやって発展させているのか?)

・「すごい! なるほど!」リストを作っておくこと。驚くほど高度な技術、あるいは巧妙だと感じた箇所があれば記録しておくこと

・「自分も試してみたい」リストを作っておくこと。興味深いアプローチや挑戦的な要素、自分なりのやり方で試してみたいと思った箇所を記録しておくこと

・あなたが名人芸だと感動した箇所を見つけること。どうしてそこが優れているのか把握するために読み返し、わかったことを記録すること

・分析すること。各章で学んだ要素を使って作品を検討すること。そして、その分析を図式化すること

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創作者のための読書術

読む力と書く力を養う10のレッスン

エリン・M・プッシュマン=著
中田勝猛=訳
発売日 : 2025年7月26日
2,700円+税
A5判・並製 | 416頁 | 978-4-8459-2315-1
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