ハリウッド脚本術

プロになるためのワークショップ101

ニール・D・ヒックス=著
濱口幸一=訳
発売日
2001年3月
本体価格
2,200円+税
判型
A5判・並製
頁数
224頁
ISBN
978-4-8459-0117-3
Cコード
C0074
刷数
16刷
備考
品切

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観客を満足させるためには「何を」ではなく、「どう」書くかが大切!ドラマ構成、登場人物のキャラクター構築、会話の研鑽、観客の誘導など、脚本家に最低限必要な知識と技術を徹底レッスン。巨大映画産業ハリウッドの脚本ビジネスの現実とは?書き込み式練習問題付き。

 机の向かい側に座った脚本家から出された、半ダースを越えるアイデアを却下した後で、そのホラー映画のプロデューサーは、自分が映画に望む類いのストーリーをそのライターに言ってやろうと決めた。当然ながら、プロデューサーが話すときには、脚本家は熱心に耳を傾けるものである。

その大立者は少しばかりためらい、椅子の中で反り返って、自分の葉巻の煙が天井へ流れていくのを眺めていた。それから、ハリウッド・プロデューサーの専売特許である自分の考えに没頭した状態になっていった。そして語られたのが――二組のカップルが週末を過ごしに山小屋へ行く、そこで彼らは予想外の吹雪で瞬く間に閉じ込められてしまう、十分な食料もなく下山する方法もない中、男の一人が助けを求めるために自然の猛威に立ち向かう決心をする、不運にも、それが残りの三人が彼を見た最後となる、もう一日を飢えと寒さの中で過ごして、 二人目の夫が助けを求めて山を降りることにする、女性二人だけを残して彼は雪の舞う中へ出ていくが、行方不明となる。
一方、二人の女性はとてつもなく空腹になってきている。必死になって、彼女たちは鶏を罠にかけ(吹雪の中で!)それを生で食べることにする。度胸のある方の女性が鳥を裂くと――彼女の夫の切断された指を中に見つけるのだ!

その自慢たっぷりのプロデューサーは葉巻を口に再び押し込んで、ライターの方に得意顔を向けて、当然のはずの、畏敬に打たれた返答を待った。「えー、まあ」と、聞いていた脚本家である筆者は向こう見ずにも聞いたのだった。「どのようにして、その指は鶏の中に入ったのですか?」
ただちにプロデューサーは身を机越しに乗り出して、葉巻をこちらの顔に向けて叫んだ。「おい、俺が知るわけないだろ。おまえがライターなんだ!」
これが筆者の、先行きを予測させるようなハリウッドの初体験であった――脚本家が鶏にその指を詰め込まなければならない。ストーリーが機能するようにするのが脚本家の仕事である。

映画を製作するチームのすべての人のうちで、脚本家が唯一本当の創造的な力で、観客のために、混乱した世界から意味を作り出す手際のいいアーティストである。
本書は、劇場用の長編映画の観客を満足させることについて述べたものである。映画評論の統一された理論ではない。成功する脚本に向けての、穴うめ式の簡単な五段階方式というものではない。製法も、魔法のまじないも、以前は明らかにされていなかった秘密などない。代わりに、あなたのアイデアを活用するためのテクニック、 スクリーンのドラマの要素に取り組むための手立て、脚本家のように考えることの学び方が述べられている。

本書は、脚本家が書いた脚本執筆についての本である。そして各ページに示されている提言はすべて、評論家や分析家としてではなくライターとして生きてきた筆者の二十年を越える見方から出ているものである。付け加えると筆者は、世界中の数多くの大学や機関に招かれて脚本執筆を教えてきている。それらの経験から、どのように脚本執筆の技巧を他の人に伝えられるかを吟味することができている。
当然ながら、あなたが捜そうとすれば、本書で示される忠告や実例に対する例外を見つけられるだろう。しかし例外によって忠告が無効になるわけではなく、ここでの忠告が他の作家の仕事を否定するわけでもない。技巧への取り組みが違うだけである。最終的には、あなたは何を書くかだけではなく、どう書くかをも選ぶだろう。

この本にできるのは、筆者の書いてきた何年にもわたる経験に基づく、最良のガイダンスを提示することだ。筆者があなたと共有したいと思うテクニックは――どんなに強固に筆者独自の視点を弁護していたとしても――、 どれーつとして絶対的な真実であると言うつもりはない。ルディアード・キップリングが言っているように「九つと六十の、部族の配置を組み立てる方法があり、それらの一つ一つ全部が正しいもの」なのである。その種の逆説こそが、ハリウッドを面白くもし無分別なものとしてしまっている。あなたにとって今すぐに価値あるものを取って、あとは別なおりのために残しておきなさい。何年か書く経験を積んだあとで、お勧め、戒め、そして指示などを、脚本執筆に関するあなた自身の哲学にまとめていくことだろう。
本書を読むときは鉛筆を持っておくように。余白にメモをなさい。読みながらの反応や考えを、まさに本の中に書くのです。実際、数ページごとに練習問題を用意したが、これらは、あなたの反応を促すための特定の行動や質問である。大部分、これらの練習問題は、即座の直観による反応を要求する。だから読みながら、たえず立ち戻ってはメモを消したり書き直しをすること。
さあ、書き込んで真っ黒にしなさい。
そういう本なのです。
いいですか、鉛筆を持って、ページをめくりなさい。そして、観客を満足させるために脚本家がしなければな らないことを見ていきましょう。
――本書「まえがき」より

目次

1……ドラマは葛藤である
ドラマが意味をなす
脚本の前提

2……観客を満足させること
誘因
期待
満足

3……スクリーンのストーリーの要素

4……スクリーンの登場人物
あなたの主人公は誰か?
登場人物の最低限のアクション
認識的不協和の理論
葛藤の焦点
主人公は何を望んでいるか?
基本的な欲求の階層
主人公が目的に到達するのを妨げているのは何か?
登場人物発見のための実践的テクニック
登場人物研究のサンプル

5……スクリーンの文脈
信頼性のコスモス
調査と研究
あなたは何をしているのか?
文脈の要素

6……スクリーンのジャンル
形式の期待

7……脚本執筆のスタイル
実践|読者の目の誘導
脚本フォーマットのサンプル
脚本フォーマットの要素
美学|読者の心の誘導
シーンの記述|少ないに越したことはない
会話|奈落の底からの悪霊
サブテキスト
エネルギー
期待

8……熱心に励む一脚本を書くということ
ライターの生活

9……脚本書きというビジネス
ショウほど素敵な商売はない
脚本のマーケット
大きな産業、小さなビジネス
アメリカ脚本家組合(WGA)
奴らにアイデアを盗まれた!
実際にあったことを描くには
アメリカの著作権
あなたのチーム
自分自身のエージェントを持つ
業界弁護士
個人マネージャー
売り込み
評価書類
契約
オプションの同意――取り引きのメモ
銀行へ
スクリーンのクレディット
創造的権利
おいくら
業界への参入

プロフィール

[著]
ニール・D・ヒックス
アメリカ政府機関のトップ・シークレットの(当局からは、存在を否定されているものの) 仕事をしたあとで、当然のごとくニールはスリラーとアクション・アドヴェンチャー映画ならびに長編のテレビを専門とする脚本家になった。一九九六年、彼は同時期にナンバーワンのヒットとなった二本の作品の成功に貢献した。アメリカでのナンバーワン『レッド・ブロンクス』と、アジアのナンパーワン『ファイナル・プロジェクト」である。他のハリウッドで 脚本のクレディットを得た作品としては、クリフ・ロバートソンとスーザン・ブレイクリーの主演で高い評価を得た『悪女のシナリオ』、ピアース・ブロスナン出演の『偽りのプロフィール』がある。近年、ニールはヨーロッパのフィルムメイカーたちと仕事をしており、スカンジナヴィアの監督ポール・アンダース=シンマと”Ministern”を作ったほか、”Ice Frontier”が現在スウェーデンでプリ・プロダクションの段階にある。舞台の演出家としての仕事も幅広く、ギルバートとサリヴァンの『ミカド』やシェイクスピアの『じやじゃ馬ならし』などを手掛けている。ニールはUCLAのエクステンションのライターズ・プログラムの上級講師をつとめており、ここで傑出した講師として表彰されている。また、ノースウエスタン大学、 ウィスコンシン大学、デンヴァー大学、カリフォルニア州立大学、カナディアン・フィルム・アンド・テレビ・インスティテュートなどでも講座を担当し、ノルウェーの映画研究センター のアドヴァイザーでもある。

[訳]
濱口幸一(はまぐち・こういち)
一九五九年生まれ。早稲田大学ならびにニューョーク大学の大学院修士課程終了。アメリカ映画史専攻。「キネマ句報」のワールド・リポート/USAの執筆担当を一九八八年 以来継続中。訳書に『キューブリック』(共訳、白夜書房)、『アカデミー賞全史』(文藝春秋)、『シネマティック・バンパイア』(監訳、フィルムアート社)、『フランク・キャプラ自伝 私の名を冠した映画』(カタログハウス近刊)、編著に『現代映画作家を知る17の〈方法〉』、『〈逆引き〉世界映画史!』(ともにフィルムアート社、シネレッスン・シリーズーなどがある。