ためし読み

『どこかで叫びが ニュー・ブラック・ホラー作品集』

序文

ジョーダン・ピール

もう何年も前のことだが、秘密地下牢ウブリエットの概念に病的なまでに憑りつかれるようになった。中世の拷問実践について夜ごと読みふけったりしない人たちのために言っておくと、秘密地下牢というのは瓶のような形をした土牢のことで、天辺に小さな覆いつきの開口部があるが、光はほとんど入ってこない。囚人たちは穴倉の底に放り込まれるのだが、あまりに狭いので寝ころぶこともできないまま、何日もそこに放置される。倒錯的なのはこの土牢がしばしば、城の中でも美味な料理が食べられている匂いがしたり、パーティーの笑い声が聞こえたりする場所にわざわざ置かれていたことだ。いっぽう、囚人たちの叫び声は誰の耳にも届かない。ついに息絶えても、遺体を回収しに来ることすらない。この恐ろしくも単純な装置につけられたエレガントな名前は、フランス語で「忘却する」という意味の「oublier」という語から来ている。

いろんな意味でこれは、『ゲット・アウト』の「沈んだ地」の基盤になった。作中で黒人たちは、手術前の催眠術と神経外科処置を通じてこの心理的秘密地下牢に送り込まれた。あらゆる主体性を剝ぎ取られ、ひとり取り残されて闘うしかないような場所。そこでは身の回りで生が営まれているのを見ることはできても、自分自身は本質的に、忘れ去られた傍観者でしかない。

『ゲット・アウト』における「沈んだ地」の細部は、クリスというキャラクター向けにあつらえられたものだ。誰にとってもというのではなくて、彼にとって個人的な意味を持つことが意図されている。クリスの「沈んだ地」は、彼の最も深い子供時代のトラウマに通じている。母親が事故で亡くなったとき何もできず、恐怖におびえながら座ってテレビを見ていたときのものだ。だがほかのみんなの「沈んだ地」はまた違ったものとして、私はいつも思い描いていた。それは我々自身の個人的な恐怖のあらわれなのだから。

クリスにとっての「沈んだ地」は、多くの点で私自身の「沈んだ地」を反映している。少なくとも見かけ上はそうだ。子供の頃、座ってじっと画面を眺めては、何とか向こう側に行きたいと願ったものだ。私はホラーを、エンターテインメントを通じた浄化カタルシスだと考えている。それは自らの深奥にある痛みや恐怖と付き合うための方法なのだ──だが黒人にとってそれはおいそれとできることではないし、過去数十年さかのぼっても、不可能だった。そもそも、物語が語られること自体がなかったからだ。

この小説集には十九人の才気溢れる黒人作家たちが集い、それぞれの「沈んだ地」と秘密地下牢を披露してくれている。この作家たちの隣に名を連ねることはこの上なく光栄であり、誇りでもある。物語の形はさまざまだ──悪魔との舞踏に、もうひとつの現実をめぐるファンタジー、本物の、そして架空の怪物たち。それらは我々の心の内奥にある恐怖と欲望を生々しく映し出す想像の産物だ。そしてそれらは、忘れ去られることはない。

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どこかで叫びが

ニュー・ブラック・ホラー作品集

ジョーダン・ピール=編
ハーン小路恭子=監訳
今井亮一/押野素子/柴田元幸/坪野圭介/福間恵=訳
発売日 : 2025年9月26日
4,800円+税
A5判・上製 | 534頁 | 978-4-8459-2505-6
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