お知らせ

ジョイス・チョプラ監督『スムース・トーク』上映決定!

2025年夏に予定されているグッチーズ・フリースクール関連上映イベントにて、ジョイス・チョプラ監督の『スムース・トーク』の上映が京都・東京・広島で行われます。

ストーリー

15歳の少女コニーは、家族との不和や思春期の揺れ動く感情に悩みながら、自分の魅力や存在を模索していた。ある日、彼女の前に現れた謎の男アーノルド・フレンドとの出会いが、無垢な日常を一変させる。甘い言葉と不気味な説得で、コニーの心は次第に追い詰められていく。少女の内面と成長、そして見えにくい恐怖を静かに描く。

『スムース・トーク』 1985年|アメリカ|カラー|92分 監督:ジョイス・チョプラ
出演:ローラ・ダーン、トリート・ウィリアムズ

提供:JAIHO
配給:グッチーズ・フリースクール

上映を記念して『ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト』での渡部幻さんによるチョプラ監督に関するテキストを特別公開! まずこちらをお読みいただいたうえで、この夏は上映に駆けつけましょう!


ジョイス・チョプラ(1936–)

 36年生まれのジョイス・チョプラが、85年の『スムース・トーク』で劇映画デビューを果たした時、既に49歳のベテランであった。ドキュメンタリー作家としてのキャリアは長く、63年のドキュメンタリー『Happy Mother’s Day』(共同監督リチャード・リーコック)に遡れる。72年の代表作『Joyce at 34』は自らの出産が仕事に与える影響を記録した短編で、当時20代のクローディア・ウェイルが撮影を任された。『Girls at 12』(75)、『Clorae and Albie』(75)を経て後に夫となる作家トム・コールとともに“フィクション”を模索した。破格ともいえる劇映画デビュー作『スムース・トーク』は、ジョイス・キャロル・オーツ、66年の短篇『Where Are You Going, Where Have You Been?』の映画化。オーツはボブ・ディランの “It’s All Over Now, Baby Blue”にインスパイアされたが、と同時にチョプラは、12歳の少女3人の生活を観察した自作『Girls at 12』の続篇的な意味合いを重ねていたはずである。

 異性との性的な関係を空想する15歳の少女の物語である。66年に発表されたオーツの小説は、ディランだけでなく、64年のアリゾナで少女3人を殺害し砂漠に埋めたチャールズ・シュミット事件も下敷きにしている。無論『スムース・トーク』は殺人の物語ではないが、留守番中の少女を訪ねてくる年上の男とのクライマックス場面で、ねっとりとした恐怖感を漲らせる。92分中の30分間を費やしたチョプラの驚くべきペース運びから、気だるく浮かび上がる白日夢的な狂気は筆舌に尽くしがたく、マリックの『地獄の逃避行』(73)やリンチの『ブルーベルベット』と比較したくもなるが、チョプラ演出は、暴力を一切用いずして暴力的なのである。

 主演は18歳のローラ・ダーン。手足の長い彼女の長身をバルテュスの少女画や写真家ジョエル・マイヤーウィッツの名著『Cape Light』に似た構図におさめたジェームズ・グレノンの撮影美。そしてダーンの驚異的な演技力とトリート・ウィリアムズが圧巻のインパクトである。マーロン・ブランドやジェームズ・ディーンを彷彿とさせるこの陽気な悪魔は、終始完全に穏やかで、怒鳴ることも、暴れることもないまま少女の心を制圧する。さまざまな解釈を誘発したのは、ラストで少女が犠牲者的な振る舞いを見せなかった点。時を経た2018年、ジェニファー・フォックスの自伝的なテレビ映画『ジェニーの記憶』は、未成年の頃に大人から受けた性的暴行を自ら歪めて初恋の思い出として記憶してきた女性を描いた。その主演もローラ・ダーンが演じており、2作品は補完的な関係を築くことになるのである。

 称賛されたジョイス・チョプラは、ダイアン・キートンとキャロル・ケインが共演の2作目『The Lemon Sisters』(89)に失敗。テレビに戻り、映画には戻らなかった。2001年の『偽りのブロンド』で再びジョイス・キャロル・オーツを取り上げ、マリリン・モンローがモデルの長篇小説『ブロンド』をドラマ化。『スムース・トーク』に連なるテーマを孕む作品だが、06年には『アメリカン・ガール / モリーの友情』をやはりテレビで監督している。

──『ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト』より抜粋


上映情報

日程上映館特集名(リンク)
8/8(金)〜京都シネマGirls, Girls, Girls 映画のなかの女の子たち
8/23(土)〜下高井戸シネマインディペンデント・ガールズの肖像
8/28(木)〜広島市映像文化ライブラリー宝探し!未公開外国映画特集

書籍情報

ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト
女性たちと映画をめぐるガイドブック
降矢聡+吉田夏生゠編
グッチーズ・フリースクール゠監修

この一冊で、映画との毎日がちょっぴり変わる。 映画とともに生きる女性たちと、女性たちとともに生きる映画と。

『USムービー・ホットサンド 2010年代アメリカ映画ガイド』を刊行したグッチーズ・フリースクールによる、「女性たちの映画史」をめぐる第2弾書籍企画! 映画史における「女性」、スクリーン上に存在する女性たち、あるいはそのイメージを紡ぎ上げる作り手、映画表現における女性存在をめぐる思考、あるいはその先で映画を広げようとする方々まで、「女性たちの映画史」に向き合うための方法を、この本と共にみつけよう。グッチーズ・フリースクールの降矢聡氏とさまざまな形で映画に携わる吉田夏生氏による、女性たちの映画史へのアプローチを考える、あたらしくたのしいガイドブック、お届けします。