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第1回 井上俊之×押山清高 スーパーアニメーターたちが語る、アニメーターとして活躍していくための基礎技術

「NEXT CREATOR BOOK」は、次世代のクリエイターのための情報をコンパクトに発信する書籍シリーズです。今回は、2019年2月26日発売の『アニメ制作者たちの方法――21世紀のアニメ表現論入門』(高瀬康司・編)にご参加いただいた、井上俊之さんと押山清高さんという世代の異なるスーパーアニメーターのお二人に、本サイト用の特別記事として、次世代のアニメーターへ向けてのアドバイスをうかがいました。
今アニメ制作の現場はどうなっていて、アニメーターとして活躍していくためには何を身につけるべきなのか。書籍内では平成の作画表現史、そして撮影・3DCGとの関係やデジタル作画、AIの可能性など、作画表現の未来像を語っていただきましたが、ここではその延長線上の企画として、時代をまたいで共通する「アニメーターの基礎技術」をテーマに、書籍を読む前の導入としても、あるいは読んだあとのさらなる理解のためにも有効な、アニメ制作の最前線の言葉をお届けします。

■絵を描くこと、絵を動かすこと

―― 今回は書籍収録の対談「作画におけるリアリティとは何か――平成三〇年間の作画表現史を考える」の関連記事として、今現在アニメーターを目指されている方、あるいは若手アニメーターの方へ向けてのアドバイスをうかがえればと考えております。まず井上さんは今、若いアニメーターにどんな素養が必要だとお考えでしょうか。

井上 何よりもまず、技術的な基礎を習得してほしいですね。よく言ってることですけど、日本のアニメーターは技術的な下地のない人が多すぎます。僕らが八〇年代から九〇年代にかけて一生懸命獲得してきた技術的な蓄積が全然普及していない。たとえばフランスのゴブラン(Gobelins)というアニメーションを含む映像系の教育機関は、毎年たくさんの優秀なアニメーターを輩出しています。つまりその技術は、訓練で十分に身に付けられるものだと思うんですね。にもかかわらず、日本ではプロのアニメーターでも相当数が、技術的な基礎ができていないんじゃないかと思う。どんな表現様式を目指すにせよ、最低限の技術的な裏打ちがないといいアニメーションはできないですよ。

―― 「最低限の技術」というのは具体的にはどういった能力を想定されているのでしょうか?

井上 絵を動かす技術、つまり「軌道」と「スペイシング」のコントロールですね。スペイシングというのは英語圏のアニメーション用語なんですけど適切な日本語訳がなくて……要はゲージで書く動画のタメツメのことで、多くのアニメーターはそもそもそれらをコントロールするという意識すら持っていない。これは大問題で、海外ではまずそこを徹底的に叩き込んでいるはずです。

押山 日本のプロの現場だと、まず一枚絵の精度が求められてしまうというのがありますよね。

井上 そうだね、今は“動くイラスト”のようなアニメーションが大半なので、絵がちゃんと描けないとダメはダメなんだけど……それでも〈アニメーション〉の最大の魅力は絵が動くことの快楽だと思いたい。実際、国内外問わず、一枚絵としての精度が低くても、動くととてもいいというケースはたくさんある。軌道がきちんとコントロールされてさえいれば、一枚一枚の絵はあっという間に通り過ぎていくので、多少荒くてもあまり問題にならない。

押山 僕も同感なんですけど、ただ、そもそも業界を目指す人の中にも、絵を動かすことよりも、きれいなイラストを描くことのほうが好きな人が多かったりしますし、大半の人にとっては一〇枚使って動きを描くよりも一枚の緻密な絵を描くほうが楽だったりもする。そのうえさらに、きれいで緻密な絵のほうがSNS上での受けがいい(笑)。

井上 そうなんだよね(笑)。

押山 そうやって上手な絵を描こうと一枚に多くの時間とエネルギーを注ぎ込んだ結果、動かすことに体力が回らないという悪循環が生まれているように感じますね。また自律した一本の映像作品として勝負している海外のアニメーション作品に比べ、日本はメディアミックス環境が前提にあるので、よくも悪くも製作委員会が求める「キャラの絵柄を安定させたい」という価値基準が現場に影響している面もあるのかなと。加えて、制作スタジオや教育現場は「アニメーション教育」に本腰を入れておらず、動かす技術のノウハウが継承されにくいという問題もある。課題は山積みです。
しかしその一方で、若いアニメーターの中には一枚絵に興味が薄い、動きに特化した人も増えてきていると思うんですね。

井上 確かにWeb系の人たち以降は、動きこそ重要なんだと直感的に知ってる人たちが増えた気がするね。

押山 ただそのうえで感じるのは、一枚絵に興味がないというのもそれはそれで問題だろうということです。“絵を描く”というのもアニメーションの本質の一つなので、そこを苦痛に感じるようだとやはりまずい。

井上 それもまた真実なんだよね。毎日絵を描く仕事なので、描くのが好きで絵が上手でなければそもそも始まらない。難しいね。

押山 動きも本質だし絵も本質。そのバランスがよくないと、作画がルーティーンになってしまい、アニメーターを続けられないのかなと思います。

■“動かす楽しさ”と“技術的な基礎”

―― 押山さんは若手の方へのレクチャーの機会も多いと思うのですが、そちらでの感触はいかがですか? たとえば学生を対象とした合宿型のアニメーション制作ワークショップ「アニメーションブートキャンプ」でも講師をされていましたが。

井上 グループで簡単なアニメーションを作るプログラムですね。僕も詳しくは知らないんだけど、どういうことを教えてるの?

押山 プロジェクトの指針としては、ノウハウを教えるのではなく、“絵を動かす楽しさ”を体験してもらうことに重点を置いています。というのも、今のアニメ業界はファストアニメの制作に最適化されているため、スタジオに入社するといきなり即戦力となる技術を叩き込まれる。中割りの技術やタップ割りの仕方などですね。しかし、そうした訓練からスタートしてしまうことで、“絵を動かす楽しさ”を体感できないままキャリアを重ねていってしまうことになりかねない。なので、個人的には“最初の感動体験”をコーディネートする場というつもりで臨んでいますね。

井上 もっと技術的なコツを教えてるのかと思ったらそうではないんだね。

押山 はい、むしろ技術的な指導はなるべくしないことになっています。講師であるプロの業界人も、教師ではなくあくまで見守る係。ノウハウは人に教わるよりも自分で発見したほうが強烈に記憶に残ると思うので、そこへ持っていけたら成功なのかなと。
だからワークショップの最初にも、なるべく動かすことのトライアル・アンド・エラーを体験してもらえるよう、「上手な絵は描こうとしないで、キャラ表から外れてもいいからまずはたくさん描くようにしよう」と伝えています。

井上 それは大事かもね。一枚絵のうまさと動きの技術的なコントロールは同時に見るのが難しいので、アニメーションの面白さを体験させるのであれば絵柄のことは一旦置いておいたほうがいい。

押山 その意味では、井上さんのおっしゃる技術的な問題の、さらに前段階を体験してもらうワークショップということになるのかなと思います。

―― また押山さんはその後の技術的側面に関しても、ご自身のスタジオで添削指導を行われていますよね。

押山 「スタジオドリアン添削室」(https://studio-durian.jp/news/)ですね。

井上 あそこは一枚絵が中心なの?

押山 今は一枚絵が多いですけど、アニメーションももちろん指導の対象にしていて、“伝わる絵”をテーマに、実際のアニメ制作現場で考えられているノウハウに則り僕が添削指導を行っています。また会員の方限定の情報共有の場として、「アトリエドリアン」(https://studio-durian.jp/news/adn)というインターネットコミュニティも立ち上げていて、どちらもまだ実験的な試みではありますけど、積極的に絵やアニメを勉強したい方は、学びの場の一つとして僕を使ってもらいたいですね。

井上 僕はそもそも“動かす楽しさ”と“技術的な基礎”は切り離せないもので、同時に知る必要があると思っているので、若い人が作画の魅力を知ってステップアップしていくためにも、そういう技術教育の場がもっと広がっていくとうれしいですね。

―― では最後のまとめとして、井上さんから、そうしてステップアップしていった先の、目指すべき“いいアニメーターの条件”をうかがえるでしょうか。

井上 まず何より「動かす技術」が最重要としたうえで、絵のうまさにも関わるのが「デッサン力」。絵画の世界でデッサン力というと対象物を正確に写し取る能力ですけど、アニメーションの場合は少し違って、アニメ的な絵柄をどんなアングルやサイズでも矛盾なく描ける能力のことです。平面の上に三次元的な空間を作って、その中で自在に絵を描き動かすことができる力ですね。
また次に大事になるのが、その動きを破綻なく「原画に落とし込む力」。つまり原画のあとの動画・仕上げ・撮影の工程まで視野に入れた技術的なコントロールですね。原画をどう描き、どういう指示を書き込めば、その後の工程が無理なく作業できるかを意識できるようになること。
そしてすべての大前提として、その作品やカットで求められていることの「理解力」。いくらうまい絵やいい動きを描いても、それが的外れだったら意味がない。作画監督などをしているとたびたび見かけるんですけど、一番もったいない例ですね。
最後にこれらが全部できたうえで、カットの内容をさらによくするようなプラスアルファの要素を盛り込む「アイデア力」。若い頃の宮崎駿さんは絵や動きだけでなく、ストーリーの結末を変えてしまうくらいのアイデアを出していたわけで、独りよがりになってはいけないんだけれども、そのカットで求められていることをしっかりと踏まえつつ、さらによくなるアイデアを出せるようにまでなれれば、それは一人前のいいアニメーターと言えるでしょうね。

(取材・構成:高瀬康司)