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第2回 アニメの「コマ打ち」とは何か――井上俊之が語る「コマ打ち」の特性

『アニメ制作者たちの方法――21世紀のアニメ表現論入門』(高瀬康司・編、2019年2月26日発売)の中で、繰り返し登場する重要な概念の一つに「コマ打ち」があります。

各種アニメ用語の基礎的な解説はすでに、Web上に限っても容易に見つけ出せるでしょうが、あらためて簡単にまとめれば、「コマ打ち」とは1秒間24フレームのうち、何フレームごとに異なる絵(動画)が入るのか(何フレームのあいだ同じ絵を表示するのか)を表したもの。たとえば俗に言う日本型リミテッドアニメーション(3コマ打ちベース)であれば「3フレームごとに1枚=1秒間24フレーム中8枚=8fps」、俗に言うフルアニメーション(2コマ打ち以上がベース)であれば「2フレームごとに1枚以上=1秒間24フレーム中12枚以上=12fps以上」の絵(動画)が描かれることになります。言葉での説明だけでは捉えづらい方も、下図をご覧いただければイメージがつかめるのではないでしょうか。

こうした「コマ打ち」という概念をめぐっては、直感的には、1コマ打ちが自然でなめらかな動きを生み出す正統なスタイルであるのに対し、3コマ打ちは経済的効率性を優先した(作画枚数を節約した)邪道なスタイルであるように思われるかもしれません。

しかし、本書の中では、3コマ打ちが生み出す動きの表現をポジティブに捉え直すアニメ制作者たちの言葉が連なります。

たとえば『この世界の片隅に』(2016)の片渕須直監督であれば、(2コマ打ちではなくむしろ)3コマ打ちを重視することで“自然主義的な動き”の構築を志向し、ディレクター/アニメーターの山下清悟さんであれば、「タイムライン系」という造語とともに、主に3コマ打ちで描き出される“実写映像的な時間感覚”の魅力を語り、あるいはアニメーション研究者の原口正宏さんであれば、スタジオジブリ/宮崎駿監督の非ディズニー的な作画作法を、東映長編(2コマ打ち)とTVアニメ期(3コマ打ち)の“端境期の経験”に見出そうとする――。

同じ「コマ打ち」をめぐっても、アニメ制作者たちは多様な思想をもって、多彩な表現を生み出します。

以上が本書に対する補助的な説明になりますが、続く後半では、「コマ打ち」をめぐるアニメ制作者の思想のさらなる一例として、井上俊之さんに「コマ打ち」と“動き”の関係についてお話いただいた取材記事を掲載します。

本書をより深く読み解くための補助としてはもちろん、実際に作画を行ううえでの実践的なアドバイスともなる解説を特別に語りおろしていただきました。

■井上俊之が語る、「コマ打ち」の特性とは?

一般に同じ動きを表現するにも、1コマ打ちは絵が密に並ぶため、動きが認識しやすくなめらかに見え、3コマ打ちは絵と絵の間に飛躍がある分、動きを追いづらくなめらかさが減じるとされています。

日本で通常「なめらかに動いて見える限界」と言われているのが3コマ打ち。ただし海外では2コマ打ちが一般的なので、それを見慣れている人の中には「3コマではカクカクする」と言う人もいますが、僕は十分なめらかに見えると思います。

また動きのなめらかさはコマ打ちだけで決まるわけではなく、「移動幅」や「動きの種類」によっても変わってくるんですね。

たとえば速い動きは絵と絵の間の「移動幅」が広くなるので、3コマ打ちで描くとパッパッパッと絵が飛んで見える。だから一般には1~2コマで描く人が多い。僕自身は速い動きも平気で3コマで描きがちですが、ただ移動幅は「画面サイズ」にも関わるもので、劇場作品で速い動きを3コマで描いてしまうと、スクリーンが大きい分だけ観る人にとっての移動幅も広くなるので、目で動きが追いづらかったりする。だからTVと比べて2コマの比率を多くするようにはしています。

また「動きの種類」で言えば、たとえば人を殴るシーン。あえて中割りを入れずに、3コマによる変化の大きい劇的な動きにしたほうが、速くインパクトのあるパンチに感じられるケースが多い。むしろ1コマ打ちではぬるっと見えてしまい、スピード感がなくなったりもする。

同様に「(その動きの)前後」がどう描かれているかも重要ですね。たとえば途中に3コマの速いカクカクした動きがあっても、そこに至るまでの流れがなめらかに繋がっていたり、あるいは最後にフォロースルーなどでなめらかに減速する様子が描かれていたりすれば、トータルではなめらかな動きに感じられる。

また極端な例では、金田伊功さん、山下将仁さん、上妻晋作さんなどがやっていた「乱れ打ち」(1コマ、2コマ、3コマ、4コマ、6コマなどを織り交ぜたコマ打ち)も、絵と絵と間は飛び飛びに見えても、彼らの描く動きは原画の配置、「軌道」のコントロールに説得力があるので、おかしくは見えない。独特な魅力がある。
だからコマ打ちの特性も本来、3コマならこう、2コマならこうと、一緒くたには語れないわけです。

(取材・構成:高瀬康司 作図:五十嵐哲夫)