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『クリティカル・ワード メディア論 理論と歴史から〈いま〉が学べる』 刊行記念 選書フェア メディア論を紐解くための34冊

各方面から絶賛の声をいただいている『クリティカル・ワード メディア論 理論と歴史から〈いま〉が学べる』。ゲーム、ソフトウェア、モバイルから、資本、ジェンダー、観光、軍事まで……現在/過去の文化と社会を一望できる、これまでになかったメディア論の入門書です。
本書の刊行に際し、編著者の門林岳史さん、増田展大さんによる選書ブックフェア〈メディア論を紐解くための30冊〉を開催しました。当フェアにおいてセレクトした選書リストを、各選書へのコメントとともにご紹介いたします。
また、本記事は重版を記念してウェブで公開するに至りました。それにあたって新たに4タイトルを追加した「ウェブ増補版」となります。

1. メディア論の古典


1. マーシャル・マクルーハン、クエンティン・フィオーレ『メディアはマッサージである──影響の目録』門林岳史訳、河出文庫、2015年

クエンティン・フィオーレ(デザイナー)とジェローム・エイジェル(エディター)がマクルーハンの思想をポップに編集したヴィジュアル・ブック。マクルーハン入門は大ベストセラーとなったこちらから。(門林)


2. ヴァルター・ベンヤミン『ベンヤミン・コレクション1──近代の意味』浅井健二郎編訳、久保哲司訳、ちくま学芸文庫、1995年

写真や映画などの複製技術論の古典としてはもちろんのこと、「写真小史」、「歴史の概念について」、「ボードレールにおけるいくつかのモティーフについて」など、メディアの作用や歴史を捉え直す方法論としてくりかえし読み直されるべきエッセイの数々。(増田)


3. レイモンド・ウィリアムズ『テレビジョン──テクノロジーと文化の形成』木村茂雄、山田雄三訳、ミネルヴァ書房、2020年

第一世代のカルチュラル・スタディーズを代表する研究者のひとり、レイモンド・ウィリアムズによるテレビ論の古典的名著(原著初版1974年)。テレビを「フロー」として読み解く本著は、決然とした技術決定論批判を展開したことでも知られる。(門林)


4. ハル・フォスター編『視覚論』榑沼範久訳、平凡社ライブラリー、2007年

M・ジェイ、J・クレーリー、R・クラウスなど、錚々たる著者たちが一堂に会した視覚文化論の震源地ともいえる論集。思想史や美術論を背景としつつも、その成果は単なる支持体という意味に限らないメディアをめぐる思考へと広がる。(増田)


5. アンドレ・ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』 荒木亨訳、ちくま学芸文庫、2012年

最近ではテクノロジーとの共進化や共生に関する議論が、ときに楽観的なトーンを帯びることになりがちな一方で、およそ半世紀前の考古学の成果をもとに、身体と技術を物質の層のうちに結びつけるメディア唯物論。(増田)


6. ド・ラ・メトリ『人間機械論』杉捷夫訳、岩波文庫、1957年

人間という存在を機械や動物とのアナロジーで理解する論点は幾度となく繰り返されてきた。それは20世紀半ばにサイバネティクスという思想を生み出すことになるが、ここでは古典的著作を一冊挙げておきたい。(門林)


7. フリードリヒ・キットラー『書き取りシステム1800・1900』大宮勘一郎、石田雄一訳、インスクリプト、2021年

【ウェブ版増補】ドイツ・メディア学の源流の一人であるフリードリヒ・キットラーによる記念碑的大著、待望の翻訳。有意味なデータの送信・保存・処理を可能にした技術と制度のネットワークを指す「書き取りシステム」゠メディアの画期が1800・1900年に見定められると、それが人間や意識、知を産出するプロセスを大胆に論じる。(増田)

2. メディア考古学


8. エルキ・フータモ 『メディア考古学──過去・現在・未来の対話のために』太田純貴編訳、NTT出版、2015年

「メディア考古学」という領域を立ち上げたひとりとして、数知れない論考を発表してきた著者の仕事を日本独自に編纂した論集。歴史の地層に埋もれたデバイスを掘り起こす手続きは、その対象や方法論の重要性とあわせて、メディア論の愉しさを伝えてくれる。(増田)


9. W・シヴェルブシュ『鉄道旅行の歴史 〈新装版〉──19世紀における空間と時間の工業化』加藤二郎訳、法政大学出版局、2011年

視覚文化の古典である本書がとり上げた鉄道は、マクルーハンが好んでとりあげるメディアでもある。パノラマ的な視覚から座席のデザインにいたるまで、その内容(乗客)を問わずして進められる鉄道メディア論は、読み直すたびに新たな視座を与えてくれる。(増田)


10. 増田展大『科学者の網膜──身体をめぐる映像技術論:1880-1910』青弓社、2017年

エドモン・デボネ(身体鍛錬術)、アルベール・ロンド(連続写真)、ポール・リシェ(解剖学)……。エティエンヌ・マレーやジャン゠マルタン・シャルコーといった大科学者の陰で歴史から忘却されていった人物たちの活動に光をあてることで、19〜20世紀の世紀転換期に身体と視覚メディアをめぐって展開していた言説と実践の総体を浮かび上がらせる労作。(門林)


11. ジョナサン・スターン『聞こえくる過去──音響再生産の文化的起源』中川克志、金子智太郎、谷口文和訳、インスクリプト、2015年

J・クレーリー『観察者の系譜』の聴覚版とも称される本書だが、現代の映像文化にも顕著な視聴覚の交錯を考えるうえで極めて重要な手がかりを提出していると思われる。同著者による『MP3』論の翻訳も待たれる。(増田)


12. 吉見俊哉、若林幹夫、水越伸『メディアとしての電話』弘文堂、1992年

メディア考古学的視座を交えながら電話に向かう社会的想像力を読み解く。メディア研究のパイオニアたちによる古典的名著。(門林)


13. 光岡寿郎、大久保遼編『スクリーン・スタディーズ──デジタル時代の映像/メディア経験』東京大学出版会、2019年

映像文化論の新たなかたちを「スクリーン」という視座から探求する16+2本の論文集。最新の実践から歴史的な事例まで、社会学や美学などのディシプリンを横断していくメディア(論)のありようが浮かび上がる。(増田)

3. 現代メディア文化


14. ヘンリー・ジェンキンズ『コンヴァージェンス・カルチャー──ファンとメディアがつくる参加型文化』渡部宏樹、北村紗衣、阿部康人訳、晶文社、2021年

「コンヴァージェンス・カルチャー」とは、複数のプラットフォームを横断して展開されるメディア戦略(和製英語「メディアミックス」とも似ている)のこと。この概念を打ち出した本書は、現代のオーディエンスがいかに複雑なメディア環境を生きているかを描き出した。2000年代北米のメディア研究において大きな影響力を持った著作の待望の翻訳。(門林)


15. 岩淵功一『トランスナショナル・ジャパン──ポピュラー文化がアジアをひらく』岩波現代文庫、2016年

日本のポピュラー・カルチャーのアジア圏での受容について豊富な聞き取り調査と理論的洞察を交えて展開する先駆的研究。英語版原著(2002年)はこの分野の古典として読み継がれている。(門林)


16. イェスパー・ユール『ハーフリアル──虚実のあいだのビデオゲーム』松永伸司訳、ニューゲームズオーダー、2016年

写真や映画、アニメーションなどの映像文化に対して、ゲーム研究は近年、そのすべてを飲み込むかのように急速な展開をみせている。なかでも記念碑的な本書による「半分現実、半分虚構」というモードは、ゲームに限らないメディア論的射程をそなえもつ。(増田)


17. レフ・マノヴィッチ『インスタグラムと現代視覚文化論──レフ・マノヴィッチのカルチュラル・アナリティクスをめぐって』久保田晃弘、きりとりめでる編訳、ビー・エヌ・エヌ、2018年

ニューメディア論の旗手がソフトウェア研究へと移行しつつ、データ分析を基盤とした実践編として提示した事例のひとつが、写真とその美学であった。その内容や方法への批判も織り交ぜつつ、昨今の「非人間的な」写真をめぐる独自編纂の論集。(増田)


18. シェリー・タークル『一緒にいてもスマホ──SNSとFTF』日暮雅通訳、青土社、2017年

心理学者シェリー・タークルは『接続された心』、『つながっているのに孤独』など、長年にわたり臨床的な観点からオンライン・コミュニケーションについて研究してきた。原著最新刊の本書ではスマホ時代の会話離れについて考察と提言をしている。(門林)


19. ナサリア・ホルト『アニメーションの女王たち──ディズニーの世界を変えた女性たちの知られざる物語』石原薫訳、フィルムアート社、2021年

アニメーション作品の華々しいヒロインたちを飾る彩色作業は、その多くが無名の女性たちによるものであったことが知られている。このことは仕上げ作業やアニメ産業だけでなく、コンピュータや電話など、広くメディア史の事例にまであてはまるはず。(増田)

4. 技術と社会


20. ロージ・ブライドッティ『ポストヒューマン──新しい人文学に向けて』門林岳史監訳、大貫菜穂、篠木涼、唄邦弘 、福田安佐子、増田展大、松谷容作訳、フィルムアート社、2019年

「新しい唯物論」を牽引し、現代のフェミニズム理論を代表する思想家ロージ・ブライドッティが「人間」なるものに尺度と規範を与えてきた人文主義と人間中心主義を鋭く批判し、テクノロジーに媒介されたグローバル資本主義が支配する世界に対峙する未来の人文学として、来るべきポストヒューマニティーズを思い描く。(門林)


21. リー・マッキンタイア『ポストトゥルース』大橋完太郎監訳、居村匠、大﨑智史、西橋卓也訳、人文書院、2020年

ポストトゥルースはいまに始まったことではない? 事実が事実と認められない状況の源流を科学社会学の手法で歴史的にたどる2018年アメリカの話題書。(門林)


22. アレクサンダー・ギャロウェイ『プロトコル──脱中心化以後のコントロールはいかに作動するのか』北野圭介訳、人文書院、2017年

フーコー、ドゥルーズ、キットラーなど、現代思想を多分に織り込みつつ、実際のウェブ技術に精通した著者のデビュー作。インターネットをめぐる唯物論的考察は、私たちを取り囲むメディア環境への批判的視座を提出した必読書となる。(増田)


23. グレゴワール・シャマユー『ドローンの哲学──遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争』渡名喜庸哲訳、明石書店、2018年

軍事技術であった無人航空機がもたらした衝撃は、哲学や倫理学にいたるまで盛んに論じられつつあるが、本書は個人を基盤としてきた倫理観のみならず、従来の視覚文化をめぐる理解をも転覆しかねないテクノロジーの作用を検討した重要作。(増田)


24. ジグムント・バウマン、デイヴィッド・ライアン 『私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について──リキッド・サーベイランスをめぐる7章』伊藤茂訳、青土社、2013年

「リキッド・モダニティ」概念の提唱者ジグムント・バウマンと監視研究の第一人者デイヴィッド・ライアンがポスト・パノプティコン時代の監視について語りあう。(門林)


25. ジョナサン・クレーリー 『24/7──眠らない社会』岡田温司監訳、石谷治寛訳、NTT出版、2015年

1日24時間、毎週7日間、たえず人間を活動へと駆り立てる先進資本主義と情報技術の機構を批判的に論じた話題書。著者のジョナサン・クレーリーは『観察者の系譜』、『知覚の宙吊り』などで知られる視覚文化論のパイオニア。(門林)


26. 伊藤守編『コミュニケーション資本主義と〈コモン〉の探求──ポスト・ヒューマン時代のメディア論』東京大学出版会、2019年

アメリカの政治学者ジョディ・ディーンが提起した「コミュニケーション資本主義」概念に導かれて、グローバル資本主義と新自由主義が跋扈する社会状況を批判的に読み解く論文集。そこに新たな〈コモン〉の可能性を見出すことはできるか?(門林)


27. 北野圭介『制御と社会──欲望と権力のテクノロジー』人文書院、2014年

ドゥルーズの提起したコントロール社会を「管理」ではなく「制御」と読み替えること。そのための議論は、いまだ汲み尽くされない理論的視座を切り開くと同時に、メディア論そのものにとっての物質的な土台となる。(増田)


28. 仲谷正史、筧康明、三原聡一郎、南澤孝太『触楽入門──はじめて世界に触れるときのように』朝日出版社、2016年

山口情報芸術センター(YCAM)が実施した触感メディア開発プロジェクト「TECHTILE」メンバーによる研究と開発の記録。彼らが開発したTECHTILE toolkitはシンプルな仕組みながら眼から鱗の再現度!(門林)


29. 佐藤知久、甲斐賢治、北野央『コミュニティ・アーカイブをつくろう!──せんだいメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」奮闘記』晶文社、2018年

せんだいメディアテークが東日本大震災以降に展開してきたアーカイブ事業「3がつ11にちをわすれないためにセンター」の記録。市民に開かれたメディア実践をどのように具体的に展開するのか。学ぶべきヒントの多い一冊。(門林)

5. メディア論入門


30. 岡本健、松井広志編『ポスト情報メディア論』ナカニシヤ出版、2018年

ナカニシヤ出版は『音響メディア史』、『記録と記憶のメディア論』などメディア論の入門書を多数刊行しているが、一冊挙げるならこちら。ユニークな切り口でメディア論の射程を広げる好著。(門林)


31. 飯田豊、立石祥子編著『現代メディア・イベント論──パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』勁草書房、2017年

パブリック・ビューイング、ロックフェス、ゲーム実況、ジン・カルチャー……。メディア・イベントという切り口で多様な文化事象を分析するメディア論入門の好著。(門林)


32. 伊藤守編著『ポストメディア・セオリーズ──メディア研究の新展開』ミネルヴァ書房、2021年

【ウェブ版増補】タイトルにある「理論」(セオリーズ)を起点としつつも、本書所収の15本の論考はそれぞれにスクリーンやフォーマット、ゲーム、モバイル、プラットフォームなど、個別の実例に即した実証的な議論を展開する。かつて予見的に唱えられた「ポストメディア」概念が、現在の社会や文化のうちでいかに実現されているのかを問う。(増田)


33. 高馬京子、松本健太郎編『〈みる/みられる〉のメディア論』ナカニシヤ出版、2021年

【ウェブ版増補】「みること/みられること」の文化・政治・技術を幅広く論じる入門書。扱う対象はジェンダー、観光、監視、AIからインスタグラム、テーマパーク、ストリートアート、ワイドショーまで幅広く、方法論も理論社会学、視覚文化論、エスノグラフィ、社会心理学など多様である。(門林)


34. 田中東子編著『ガールズ・メディア・スタディーズ』北樹出版、2021年

【ウェブ版増補】編者による最終章のタイトル「女の子による、女の子のためのメディア研究に向けて」が本書の意義と目的を端的に示している。広告、ファッションのようなオーソドックスな領域に加え、メイドカフェ、ZINEのような対象にまで幅を広げ、各メディアにおけるジェンダー表象の分析にとどまらず、新たな実践(卒論執筆も含む)へと導いていく希有な入門書。(門林)