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『クリティカル・ワード 現代建築』刊行記念 選書フェア ブックリスト現代建築をもっと深く知るための31冊のクリティカルブック

基本用語から、時事、サブカル、最新テクノロジーまで、建築を取り巻く幅広いトピックを一冊で学べるキーワード集『クリティカル・ワード 現代建築 社会を映し出す建築の100年史』
本書では、都市、技術、政治、文化、メディアという5つの分野を専門とする、5人の著者がキーワードを選定し執筆。現代建築へ至る100年史を10年ごとに区切り、各時代の建築を理解するための重要なキーワードを、すべて書き下ろしのテキストで解説します。
本書の刊行に際し、編著者の山崎泰寛さん、本橋仁さん、著者の勝原基貴さん、熊谷亮平さん、吉江俊さんによる選書ブックフェア〈現代建築をもっと深く知るための31冊のクリティカルブック〉を開催しました。当フェアにおいてセレクトした選書リストを、各選書へのコメントとともにご紹介いたします。


1. エイドリアン・フォーティー『メディアとしてのコンクリート──土・政治・記憶・労働・写真』坂牛卓、邉見浩久、呉鴻逸、天内大樹訳、鹿島出版会、2016年

古くて新しい素材であるコンクリートを切り口に、近代建築が何を目指し、どのような成果を世界中に産み落としたのかを論じる。固くて重いコンクリートを不完全な素材とし、思想や社会、技術の潮流を建築に媒介するメディアとみなす、目からウロコの建築史。(山崎)

2. ティム・インゴルド『ラインズ 線の文化史』工藤晋訳、左右社、2014年

歩くこと、織ること、物語ること、書くこと……人間は「線」をつくって生きている。人類学者・インゴルドが「ライン」を通じて近代化の正体を論じる、縦横無尽かつ深遠な論考。「旅の経験としてのラインがどう変化したか」「それに従って〈場所〉の意味は、どうなったか」などの部分は、近代論・都市論として引き込まれます。(吉江)

3. 内田祥哉『ディテールで語る建築』彰国社、2018年

設計と研究を行き来しながら建築構法学を確立した著者が、モデュールやフレキシビリティなど独自の視点から探求した多様な建築について、その思考をあますところなく語る。本書は生涯を通して建築生産の工業化とその後の時代と向き合った著者が、黎明期の技術や開発期の建材について記した技術史でもある。(熊谷)

4. 山本想太郎、倉方俊輔『みんなの建築コンペ論──新国立競技場問題をこえて』NTT出版、2020年

建築コンペは時代の要請に対応して企画され、その成果が次代のデザインに展望を与えてきた。社会を騒がせた新国立競技場問題を検証し、建築コンペの歴史・現状を詳らかにしながら、現代社会にマッチする建築コンペのモデルを提案した一冊。(勝原)

5. アドルフ・ロース『虚空へ向けて──1897-1900』加藤淳訳、鈴木了二・中谷礼仁監修、アセテート、2012年

『クリティカルワード 現代建築』のキーワード「001」番は、アドルフ・ロースの「装飾と犯罪」。この本は、これまで未邦訳だったロースの初期論考を含め、原典からすべて翻訳し直したもの。ロースは、建築家になる前、新聞記者として文化面を担当した時期がある(ゆえに超毒舌になっちまった!)。この本に収められている論考も、ファッションや工芸に至るさまざまな文化批評だ。書容設計は羽良多平吉。(本橋)

6. 大村理恵子・本橋仁編『分離派建築会100年──建築は芸術か? 』朝日新聞社、2020年

(1920年代の話題から)建築は芸術なのぉ?と今も繰り返される問い。これに真っ向から、建築は芸術ですヨ!と宣言して、合理主義の風潮に歯向かったのは、大学をこれから卒業しようとする6人の若者だった。1920年に結成された分離派建築会の、およそ10年の活動を紹介した展覧会の図録。ブックデザインは西岡勉。(本橋)

7. ピーター・ブランデル・ジョーンズ『モダニズム建築──その多様な冒険と創造』中村敏男訳、建築思潮研究所、2006年

近代建築、機能主義、インターナショナルスタイルとも呼ばれるモダニズム建築は、巨匠の傑作もあれば均質な姿が批判の対象となることもある。一言で説明することがかように難しいモダニズム建築について、本書は、イデオロギーとしてのモダニズムから逸脱する個々の建築家と作品を通してその魅力的な世界を解読する。(熊谷)

8. 井上章一『つくられた桂離宮神話』講談社学術文庫、1997年

(1930年代の話題から)ブルーノ・タウトが来日すると、間もなくして日光と桂離宮に案内される。かの有名な言葉、日光は「イカモノ!」と断罪し、それまでの日本人が美しいと思ってきた価値観が転倒する……。スゴいぞ、タウト! 日本の抽象的な美しさを見抜いたんだね。と言われてきたのは、日本人によって仕向けられた出来事だった⁉︎ 『京都ぎらい』でも知られる著者が、建築史家として、この有名なエピソードの裏側を迫る。(本橋)

9. 小川裕夫『東京王』ぶんか社、2017年

首都・東京を築き上げてきた14人の偉人たちの物語。時に「東京王」として強権をふるってきた都知事のみならず、陰に陽に東京を支えてきた人物、伊藤博文や渋沢栄一、辰野金吾、後藤新平、小林一三……知られざる立役者まで。(勝原)

10. 酒井一光『発掘 the OSAKA』青幻舎、2020年

大阪には明治以降の近代のビルが今も残っていて、現役バリバリで使われているものも数多い。本書は建物公開イベント「生きた建築ミュージアム大阪」さながら、建物一棟からまちの歴史を読み解く生きたガイドブックでもある。著者は建築史家で、大阪歴史博物館の学芸員だった故・酒井一光さん。(山崎)

11. 加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』新潮文庫、2016年

戦争は多くの人が望まないながらも始まり、終わらず、結果的に人命と希望を無差別に奪ってしまう。高校生向けの講義で、彼らに求めた当事者としてのシミュレーションも記される本書は、歴史的な想像力を養うことの意義を考えさせてくれる。(山崎)

12. 石榑督和『戦後東京と闇市──新宿・池袋・渋谷の形成過程と都市組織』鹿島出版会、2016年

(1940年代の話題に関連して)戦後の混乱で、物資も統制されるなか、人が集まるところにはやはり、闇市が生まれていった。実は、闇市で生まれた戦後の都市の形が、今なお東京の都市には残っている!ということを、この本は綿密な資料調査から明らかにしてくれる。吉祥寺のハモニカ横丁や、新宿の思い出横丁など、中央線カルチャーに親しんでいる人にも、きっと必読の書。ブックデザインは中野豪雄。(本橋)

13. 川口ミリ、伊勢真穂、羽佐田揺子編『奇跡の住宅──旧渡辺甚吉邸と室内装飾』LIXIL出版、2020年

(1940年代の話題に関連して)ありがとうINAX、ありがとうLIXIL。1981年に伊奈ギャラリーとして誕生し、2020年秋の閉廊まで。多くの建築にまつわる展覧会、また合わせて出版活動を行ってきたLIXIL。INAXブックレットと呼ばれる正方形の判型をもつシリーズは、持つのが嬉しくって、いつも手が喜んでた。本棚に何冊も並べると、玉手箱のようでした。近年のブックレットのデザインは、コズフィッシュの祖父江慎が手がけた。長年の企業活動に、あらためて「ありがとう」。(本橋)

14. 祐成保志『〈住宅〉の歴史社会学―─日常生活をめぐる啓蒙・動員・産業化』新曜社、2008年

建築を考える時の原点である「住む」ということを、歴史社会学の視点から鮮やかに描き出す。いま私たちが暮らす「ふつうの住宅」は決してふつうではないことを、啓蒙・動員・産業化というキーワードから読み解いていく。伊藤忠太や今和次郎など、建築界隈でおなじみの人物がまったく異なる文脈で論じられていく、新鮮な体験でした。(吉江)

15. 志岐祐一、松本真澄、大月敏雄編『四谷コーポラス──日本初の民間分譲マンション1956-2017』鹿島出版会、2018年

住宅公団、51C、建築計画学……戦後に求められた住宅の大量供給とその後の質の向上は、集合住宅のひとつの歴史。では民間での集合住宅はどのような理念と実践を遂げたのか? 建替えを目前に紐解かれた、その最良の事例研究。住民の言葉一つひとつが重いのに、どこか朗らかなのは、住まいが希望とともにあったからだろう。(山崎)

16. 日本の近代・現代を支えた建築─建築技術100選─委員会編『日本の近代・現代を支えた建築─建築技術100選─』日本建築センター/建築技術教育普及センター、2019年

震災や戦争からの復興、高度成長を通して日本の建築・都市は目まぐるしい変貌を遂げた。最新技術を海外から導入し、また日本独自の技術として発展させユニークな都市環境を形成してきた。100年の建築と都市を彩る技術に関わるキーワードを取り上げ、各専門家によって書かれた本書は手元に置いておくにふさわしい一冊だ。(熊谷)

17. 渋谷区立松濤美術館編『白井晟一入門』青幻舎、2021年

(1950年代の話題と関連して)白井晟一が設計した松濤美術館。その開館40周年を記念して、美術館の建築自体をテーマにした展覧会が開催された。これはその図録。カリスマ的な人気を誇る白井晟一像に、周縁や同時代作家との関係から、新たな白井晟一を浮かび上がらせた。何も展示せず、美術館自体をアートワークとして見せた!ことでも話題に。ブックデザインはマツダオフィスの松田行正・倉橋弘。(本橋)

18. Rem Koolhaas, Hans Ulrich Obrist, Project Japan. Metabolism Talks?: An Oral History of Metabolism, TASCHEN, 2011
レム・コールハース、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト『プロジェクト・ジャパン──メタボリズムは語る…』太田佳代子、ジェームス・ウェストコット、AMO編、平凡社、2012年

(1960年代の話題と関連して)誰がフィクサーか? 60年代に、日本から世界に発信されたメタボリズム運動。敗戦から立ち上がり、世界に例を見ない建築論を展開し、大きな注目を集めた……。果たして、その背後に誰がいたのか? あの世界的建築家、レム・コールハースが、当事者たちにインタビューしたなかから浮かび上がるもうひとつの真実とは。スリリングな読み物で、私は一日で読んじゃったほど。ブックデザインはイルマ・ブーム。(本橋)

19. 村上春樹『ノルウェイの森』上・下、講談社文庫、2004年

物語は1960年代から70年代にかけての学生生活を淡々と綴っていくのだが、東京の同時代史でもある。主人公が授業をさぼって酒を飲むのは空想の店ではなく、デザイナーが特定できる具体的なジャズバーだ。新宿西口の騒乱や、学生運動に背を向ける学生など、建築が生きた時代の空気ごと味わいたい。(山崎)

20. 松村秀一ほか編著『箱の産業──プレハブ住宅技術者たちの証言』彰国社、2013年

(1970年代の話題と関連して)化学メーカーが住宅産業に参入? 日本の70年代は、化学工業が、鉄鋼業が、それに林業が、それぞれの強みを活かして住宅産業に乗り込んできた。街を歩けば、たくさん目に入ってくる、あの企業もこの企業も、その出自は意外なところに。ハウスメーカーの黎明期の様子を、技術者へのヒアリングで詳らかにしていく。(本橋)

21. 磯崎新、日埜直彦『磯崎新インタヴューズ』LIXIL出版、2014年

巨人・磯崎新の目を通した戦後日本建築史。磯崎らしく、芸術家やデザイナーら建築以外の領域を融通無礙に横断する構成が楽しい。磯崎のすべての話題にリアクションし続けるもう一人の著者・日埜直彦の言葉も切れ味鋭く、本書の読み応えをいっそう深いものにしている。(山崎)

22. 象設計集団編著『空間に恋して──象設計集団のいろはカルタ』工作舎、2004年

(1980年代の話題と関連して)沖縄から十勝、さらには台湾まで。その土地の風土を読み解きながら、とはいえ埋もれることなく、大胆な手法で設計を展開してきた象設計集団の作品集。なんたって、ずっしり重い! この腕にくる重みこそ、象設計集団! ブックデザインは、Team ZOOや吉阪隆正関連書籍のデザインを数多く手がける、ペーパースタジオの春井裕。(本橋)

23. 貝島桃代、黒田潤三、塚本由晴『メイド・イン・トーキョー』鹿島出版会、2001年

(1990年代の話題と関連して)筆者の私は東京生まれだが、素直に育った。でも一般に、モノとヒトが高密度に集積する東京では、どうも真っ直ぐに人間も、それに建築も育ちにくい! 東京のフィールドワークを通して集められた、東京にしかない奇妙な建築を、分析していく。そんな「東京生まれ」の建築を通して、東京の性格が浮かび上がってくる。ブックデザインは、古平正義。(本橋)

24. ニール・スミス『ジェントリフィケーションと報復都市──新たなる都市のフロンティア』原口剛訳、ミネルヴァ書房、2014年

商業主義の都市開発が地域を豹変させ、地価が高騰するとともに住民たちが追い出されていく……。地域の高級化ともいえる「ジェントリフィケーション」(直訳すると「紳士化」)を論じた名著。コロナ前の映画『JOKER』や『パラサイト』は、ジェントリフィケーションが世界的な関心になっていることを示していたと、評者は思います。(吉江)

25. マリオ・カルポ『アルファベットそしてアルゴリズム──表記法による建築─ルネサンスからデジタル革命へ』美濃部幸郎訳、鹿島出版会、2014年

(2000年代の話題と関連して)どうやって、思い描いた建築を間違いなく人に伝え、具現化できるか。ルネッサンスの時代、建築家アルベルティは、そのために図面の届け方に至るまでに注力し、「建築家」という作家性を重要視した。一方の現代では、デジタルを使った設計により原作者性が薄れている。むしろアルベルティ以前に戻っている! いま時代のあるべき建築家像を問う、話題の書。(本橋)

26. 山名善之『世界遺産 ル・コルビュジエ作品群──国立西洋美術館を含む17作品登録までの軌跡』TOTO出版、2018年

世界遺産の意義、推薦・評価の過程とは何なのか。国立西洋美術館を含む17のル・コルビュジエ作品群が世界遺産登録に至るまでの約15年間の軌跡が、その中心的役割を担った山名善之氏ならではの視点で解き明かされています。(勝原)

27. 山崎亮、乾久美子『まちへのラブレター ──参加のデザインをめぐる往復書簡』学芸出版社、2012年

1995年の阪神淡路大震災がボランティア元年だとすると、東日本大震災があった2011年はコミュニティデザイン元年だった。ならば、やはり具体的な建築設計との相性を知りたくなる。コミュニティデザイナーの山崎氏と、建築家の乾氏が延岡駅のプロポーザルを通じて奇跡的に出会い交わした、まちづくりや建築が数十年(もっと?)かけて陥った慢性的な肩こりを芯から解きほぐすような往復書簡。(山崎)

28. 打越正行『ヤンキーと地元──解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』筑摩書房、2019年

沖縄社会の戦後史は、日本の戦後史の縮図ではないかと思う。著者は社会学者としてフィールドワークを進める……というよりも、一人の人間として沖縄社会に飛び込んでいく。イチから人間関係を構築し、仕事と仲間を得て、情報を積み上げていく。そのプロセスは本人の個人史であるし、沖縄と本土の関係を圧縮した戦後史でもあるように読めた。(山崎)

29. 東浩紀『弱いつながり──検索ワードを探す旅』幻冬舎文庫、2016年

副題の「検索ワード」とはまさにグーグルで私たちが無意識に入力してしまう単語のこと。著者が旅に出て知らない風景に出会い、予期できない言葉に気づいていくプロセスは、クリティカル・ワードの一つひとつのワードを、読者の新しい扉を開くものとして積み重ねたいという願いの支えになった一冊。(山崎)

30. 千葉雅也『アメリカ紀行』文藝春秋、2019年

哲学者の著者がハーバード大学での在外研究で見た風景が率直な文体で綴られる。クリティカル・ワードで何度も言及したアメリカの今が、これほど具体的な感情を伴って言葉になっているのがすばらしく、東さんの『弱いつながり』と同じく、山崎がどうやって編集するのかと考えていたときに何度も手にとった一冊です。(山崎)

31. 秋吉浩気(VUILD)『メタアーキテクト──次世代のための建築』スペルプラーツ、2022年

(2010年代の話題と関連して)デジタル・ファブリケーション、いわゆるデジファブを牽引するVUILD秋吉浩気さんの最新作。本の構成も面白く、右ページはテキストベースで構想や理念を。左ページは、これまでの実地での活動を写真や図版ベースで紹介していく。いやぁ、膨大なリアルな世界での試行錯誤があって、デジファブのVUILDがあるのだなぁと感じさせられました。ブックデザインはコズフィッシュ出身の佐藤亜沙美。(本橋)