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プロが選ぶオススメの物語創作指南書3冊 ゲームシナリオライター・重馬敬選

小説投稿サイトや動画配信プラットフォームが整備され、誰もが自分の物語を発表できる時代。わたしたちは、誰もが「作者」になることができる時代を生きています。しかし、わたしたちの身の回りには、すでに膨大な数の物語(小説、マンガ、映画、ゲーム、アニメなど)が存在しています。どうすれば、人を惹きつける物語を書くことができるのでしょうか。その悩みを解消すべく、これまで数多くの物語創作指南書が刊行されてきました。書店行けば、さまざまな切り口の、そしてさまざまな難易度の指南書が並んでいます。あまりにもその数が多いので、どれを読めばよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、さまざまなジャンルで活躍するプロの作家の方々に、各自の視点から「オススメの物語創作指南書」を3冊選んでいただきます。

今回は、ゲームシナリオライターでシナリオ工房 月光の代表、重馬敬さんに選書していただきました。シナリオ工房 月光はゲームシナリオを専門的に制作する会社として、1998年の創立以来、トップランナーとして業界をリードしてきました。また重馬さんは、ライターの活動の促進、支援を目的する「日本ゲームシナリオライター協会(JAGSA)」代表理事を務めています。ゲームシナリオの世界を知り尽くしている重馬さんが選んだ究極の3冊とは――。


これからゲームシナリオを書いていこう、あるいはステップアップしたいと考えているライターさん向けに3冊の参考書を選んでみました。

 

キャラクター
登場人物の本質と創作の技法
ロバート・マッキー=著

まずは、ロバート・マッキーの三部作、『ストーリー』、『ダイアローグ』、『キャラクタ-』から、『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』です。

この三部作は、アメリカの映画学校などで創作の基礎教養、創造的思考のベースとなった技法をまとめた大著です。ノウハウだけつまみ食いできる創作ハウツー本ではなく本質から解き明かしていく非常にアカデミックな内容で、まさに大学授業の講義録です。なかなか難解な部分もあり読み解きに時間がかかりますが、創作の基礎筋肉インナーマッスルを鍛えるには最適かなと思います。実際、三冊まとめるとかなりの重量なので上げ下げしたらリアルな筋肉も鍛えられます。たぶん。

三部作の中でも、ゲームシナリオ制作者に最初に読んで欲しい本として『キャラクター』を薦めています。他の二冊もストーリーテリングの勉強という意味におては大変参考になります。しかし、ゲームシナリオの特殊性を考えると本の内容を変換、組み替えてゲーム構造に落とし込んで理解していく必要があります。

それは、映画やテレビドラマ、小説などのエンタメ作品とは違って、ゲームはプレイヤーの「体験」によって駆動される作品だからです。

また、昨今、とくにキャラクターの重要性は急速に高まっています。ゲームにおけるキャラクタの商品性の高まり、という言い方もできますね。特にスマートフォンゲームにおいてはキャラクターを得ることが最大のモチベーションであったり、ゲームの収益構造の要であったりします。

言い方は悪いですが通り一遍のキャラクターを創造しそれをゲームにはめ込むことはできます。しかし、可能であればきちんとゲーム構造やプレイヤー体験、ストーリー構成の中で活躍させたいと思うのです。

もっとも根源的な部分の「創作されたキャラクターとは”何者”であるのか?」を理解し創造するための教科書として、本著作は解析する価値が大いにあると思っています。

ためし読み
イントロダクション
役柄とキャラクター

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ストーリーのつくりかたとひろげかた
大ヒット作品を生み出す物語の黄金律
イシイジロウ=著
星海社新書

ゲームデザイナーでありゲームディレクター、構成者、企画者として幅広く活躍されているイシイジロウ氏のストーリー制作のノウハウを簡潔に学べる本です。

先のロバート・マッキー氏の『キャラクター』の紹介文に書きましたが、ハリウッド流のストーリー構成技法をそのままゲームに当てはめるには難があります。ゲーム独特のエンタメ構造やプレイヤーの体験に落とし込んで理解しなければなりません。

本書では、最初に海外でノウハウとして共有化されている「三幕八場構成」や「15ビート」の技法についてわかりやすく解説。そして、ゲームシナリオへの応用についても言及されています。

また、解析する作品について、「アイアンマン」や「君の名は。」などわたしたちにとってなじみ深いエンタメ作品を選択していることにより理解は深まると思います。


SAVE THE CATの法則
本当に売れる脚本術
ブレイク・スナイダー=著

いまのところハリウッド流のストーリー構成のノウハウ本として最強の一冊ではないか、と思っているのがこちらです。

基本的にはハリウッド映画を解析して提唱されたシド・フィールドの「三幕八場構成」をより細分化し具体化したものだと思っています。大ヒットしたハリウッドの大作映画をリバースエンジニアリング的に最小コードまでバラバラに分解していくとこの15ビートが浮かび上がってくることが多いです。

では、なぜこの本を最後にご紹介したのか?

まずは最初のロバート・マッキー氏の三部作でクリエーターとしての創作基礎体力をつけてもらう。次にイシイジロウ氏の著作でゲームシナリオライターとして大づかみで”今”の時代を感じとってもらう。最後にゲームシナリオもまたシナリオである以上ストーリーの構成が重要。これを自分はストーリー強度という言い方をしますが、この強度を上げるために15ビートを参考にゲーム用のコードを考えてみて欲しいからです。

ちなみに、自分用にカスタマイズした小説用のコードを使って執筆したものが小説版の『空想科學小説 鉄人28号』(KADOKAWA)です。わりとうまく機能しました。ゲーム用のコードもいくつか作っています。

ためし読み
Chapter1 どんな映画なの?
Chapter4 さあ、分解だ!

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『SAVE THE CATの法則』の3つの要点


フィルムアート社から刊行された「物語やキャラクター創作に役立つ書籍」を下記ページにまとめています。映画だけでなくゲーム・小説・マンガなどのジャンルにも応用可能です。脚本の書き方、小説の書き方に悩んでいる方はぜひご一読ください。