ピックアップ

プロが選ぶオススメの物語創作指南書3冊 ゲームシナリオライター・北岡雄一朗選

小説投稿サイトや動画配信プラットフォームが整備され、誰もが自分の物語を発表できる時代。わたしたちは、誰もが「作者」になることができる時代を生きています。しかし、わたしたちの身の回りには、すでに膨大な数の物語(小説、マンガ、映画、ゲーム、アニメなど)が存在しています。どうすれば、人を惹きつける物語を書くことができるのでしょうか。その悩みを解消すべく、これまで数多くの物語創作指南書が刊行されてきました。書店行けば、さまざまな切り口の、そしてさまざまな難易度の指南書が並んでいます。あまりにもその数が多いので、どれを読めばよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、さまざまなジャンルで活躍するプロの作家の方々に、各自の視点から「オススメの物語創作指南書」を3冊選んでいただきます。

今回は、著書『ゲームシナリオ入門 基礎知識から設定・キャラクター・プロット・テキストの技法まで(技術評論社)が大きな話題となった北岡雄一朗さんによる選書です。北岡さんは、ゲームシナリオ、小説、ドラマ/アニメ脚本、漫画原作など物語制作を専門とする株式会社レプトンの取締役であり、ゲームシナリオライターです。これまで『ファイアーエムブレム 覚醒』『実況パワフルプロ野球アプリ』『ガンダムブレイカーモバイル』『デジモンワールド -next 0rder-』など、数々のヒット作品に参加してきた北岡さんが選んだ3冊とは――。


初心者にとっての物語作りは、白地図を手に踏み出す未知への冒険です。
なんの道しるべもなく先へ進んでも、なかなか思うような物語は完成しないでしょう。
少なくとも、初心者のときの筆者はそうでした。
そんな右も左もわからない初心者に、目的地への道のりを教えてくれるのが、偉大な先人たちが残してくれた地図――創作指南書です。
先人の教えに導かれ、たどたどしくも目的地にたどり着いた筆者は、以来、数十冊の創作指南書を読み、ついには自ら指南書を執筆するに至りました。
そんな筆者が、これから旅立つ勇敢な冒険者に向けて、目的地への道しるべとなる3冊を選んでみました。参考になれば幸いです。


購入する

アイデアのつくり方
ジェームス W.ヤング=著
CCCメディアハウス

物語作りは、出涸らしになるまでアイデアを絞り出し続けることにほかなりません。
良いアイデアは、物語作りを進めるうえでの心強い道具であり、エネルギーであり、時には目的地そのものともなる宝物です。
本書は「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ」であり、5つの過程を経ることで生み出せると解いています。
これはまさに、宝物への道のりを教えてくれる地図そのものです。

【アイデア作りの5つの過程】
①資料を収集する
②資料を分析して組み合わせを試す
③問題を心の外に追いやる
④ひらめきのときを待つ
⑤生まれたアイデアを世に出し、成長させる

物語作りにおける生みの苦しみとは、どれだけ脳みそを絞ってもアイデアが出ない状態の言い換えです。そしてその苦しみこそが、物語の完成を阻む、もっとも強い毒となります。
本書は、そんな苦しみから救ってくれる解毒剤でもあるのです。
宝の地図でありながら、解毒剤でもある。そんな魔法のような本を読まずに先へ進むのは、もったいないと思いませんか?
ぜひ旅のお供に本書を携え、目的地への歩みを少しでも楽なものにしてください。


「SAVE THE CATの法則」で書ける 物語創作ワークブック
ジェイミー・ナッシュ=著
ブレイク・スナイダー=原案

本書は、創作指南書の定番となった名著『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』を教本にした、書き込み式のワークブックです。
本書の手順に従うことで、自己分析から始まり、初期のアイデア出し、タイトル作り、プロットとキャラクターの原型作り、プロットのブラッシュアップとキャラクターの深掘り、具体的なエピソードの書き出し――といった難しい工程が滞りなく完了します。
このワークブックを1冊終わらせれば、あなただけの物語が1本できあがるわけです。
本書のポイントは、嚙み砕かれた「適切な問い」を提示してくれるところにあります。
物語作りには、テーマ、コンセプト、プロット、キャラクター、構成など、必要な要素がいくつもあります。それらの要素から、適切な答えを選んで積み上げることで、物語は完成します。
しかし適切な答えを導き出すのは、簡単なことではありません。
なぜなら、適切な答えを得るためには「適切な問い」を作れなければならないからです。
「適切な問い」とは、道路標識や案内板のようなもので、目的地への正しい道順を知る一番の手がかりです。本書があれば、道に迷うことはありません。
物語を完成させられるだけでなく、今後に役立つ「適切な問い」の作り方まで会得できる。まさに一石二鳥の良書といえるでしょう。


購入する

読者ハ読ムナ(笑)
いかにして藤田和日郎の新人アシスタントは漫画家になったか
藤田和日郎・飯田一史=著
小学館

「物語を完成させる」という目的に到達できたら、次は「面白い物語を作る」という新たな冒険が始まります。
創作者にとっては、ここからが本当の冒険の始まりです。
「面白い」を求め始めると、暗闇の大海原へ漕ぎ出すような難しさに直面することでしょう。そんなとき、進むべき航路を示す羅針盤となってくれるのが本書です。
『うしおととら』をはじめ、多くの大ヒット漫画を世に送り出してきた著者が示す指針は、ひとつだけ。「ひとの心が変わるドラマを描け」です。
本書では、この明確な指針を実践する方法を、新人漫画家志望のアシスタントに指導するという体で、語りかけるように教えてくれます。

・他人の「好き」に興味を持て
・映画を見て5点満点で採点し、点数の根拠を言語化しろ
・ストーリーもキャラクターもギャップがいちばん重要
・キャラクター作りは「なんで?」と徹底して問い続けろ
・「何をする話なのか」と読者が気になる「設問」を早く提示しろ
・一般常識から入る。普通のリアクションをさせろ
・読者が想像したハッピーエンドよりも上に行け
・「キャラクターが立つ」=次の行動の想像がつくこと
・かけ合いは正反対を向き合っている関係のほうがうまく転がる
・個性はキミの「好き」から生まれてくる

これらは本書の中で語られる心構えや技術、哲学のほんの一部です。
著者の薫陶を受け、アシスタントから一本立ちした方々には、『烈火の炎』『MÄR』の安西信行先生、『美鳥の日々』の井上和郎先生、『花もて語れ』の片山ユキヲ先生、『サムライ・ラガッツィ』の金田達也先生、『ムシブギョー』の福田宏先生、『金色のガッシュ!!』の雷句誠先生をはじめ、錚々たる顔触れが並びます。
本書の中で著者の初代担当編集である武者正昭氏は、「ここまで次々とアシスタントがプロ作家として育っている仕事場は、きわめてまれです」と語っています。
それだけ著者の教えは、漫画家になるうえで大切なことばかりだということでしょう。
本書は漫画家志望者に向けて書かれた創作指南書ではありますが、シナリオライターにとっても大切な教えが数多く含まれています。
「面白い」に迷ったら、そしてもしあなたがプロを目指してみようと思うなら、本書を手に取ってみることをオススメします。


フィルムアート社から刊行された「物語やキャラクター創作に役立つ書籍」を下記ページにまとめています。映画だけでなくゲーム・小説・マンガなどのジャンルにも応用可能です。脚本の書き方、小説の書き方に悩んでいる方はぜひご一読ください。